認知再構成法は,人々の精神状態を改善するのに有効な,確立された心理学的技法である.ユーザがチャットボットから助言を受けることや,逆にユーザがチャットボットに対して支援を行うことは,どちらもユーザの認知再構成を支援するのに効果的であることが先行研究によって示されている.しかしながら,これらのチャットボットとのやり取りが,ユーザの認知再構成や心理状態に対してもたらす影響の違いについての比較検証は,未だ十分になされていない.この課題に取り組むため,本研究では大規模言語モデルを活用して2種類のチャットボットを開発し,それらを組み込んだウェブシステムを構築した.一つは,ユーザと同様の悩みをユーザに相談するピアチャットボットであり,もう一つは,ユーザの悩みに助言を行うコンサルティングチャットボットである.統制群・ピア群・コンサルティング群の3群に分けられた計102名の参加者に対し,3週間にわたってユーザ実験を実施した.結果として,先行研究とは異なり,いずれの群においても参加者の心理状態に有意な変化は見られなかった.また,ピア群では,チャットボットの介入によって悩みに対する別の考え方を記述することがより難しく感じられたことが確認された.一方コンサルティング群においては,チャットボットの介入によって主観的解決に至った悩みの個数が有意に増加した.先行研究と照らし合わせながら,これらの結果が得られた理由について考察する.また,その考察を踏まえ,ユーザの認知再構成を効果的に支援するチャットボットシステムの設計に関しても議論する.

梅田 悠哉,楊 期蘭,平野 真理,矢谷 浩司.2024.大規模言語モデルを活用した認知再構成法支援チャットボットシステム.DICOMO 2024.(paper)